ドキプラのアジアはずかしい旅 13話
13 度胸試ししている場合じゃない
シェムリアップではおなじみの絶景スポットであるプノムバケンという山の頂上に建つアンコール遺跡群の中のひとつの寺院がある。
日が暮れる時間に合わせ登山口付近ではトゥクトゥクやらツアーバスやらで、ごった返す。
近くではエレファントライドで像に乗る為に順番待ちをしている沢山の欧米人。
ポストカードを売る子供達、片手が無かったり、片足が無かったりと、観光客に
小銭を求めて、必死に手をあ合わせる物乞いの人達。
物乞いはどこでも観光スポットには出没する。
職場のMさんはよく{こJき株式会社だろ」と言う、これは胴元が、いて物乞いする人達を人通りの多い所に配置させて、お昼にはちゃんと胴元からご飯も届けられ、物乞いの稼いだあがりを胴元が回収して、そこから微みたる分け前を物乞いは貰う。赤い土埃のたつ中をあらゆる夕者達がいる。
小さい山だが、登っていくと、物乞いの方々が鉄琴やら笛やらで演奏してる。
そこは無視してせっせと登って行き以外にすぐに頂上に着いた。
さあ、サンセットの時間もう始まっている。
アンコールワットを探してキョロキョロしていると「あそこだよ」と、指を指す日本人のツアーの観光客。
眼下に広がる森の緑が夕陽のオレンジに染まる光景は、ジーッと見ていると、ため息より深い、後悔のような物が胸の底からこみ上る。ボーっと同じように見ている沢山の観光客、オレンジの袈裟を着た僧侶もこの貴重な黄昏時に酔いしれている。
夕陽が半分ま沈むとオレンジ色はさらに華やかに映りジ―ンと胸が痛くなる。
僕はこんな気持ちここ最近は味わった事がない。
しいて言うならば、自衛隊時代に新隊員教育訓練が終わり3ヶ月間ヒーヒー言いながら、訓練に耐えて、汗を流し、そして笑い、一緒に同じ釜の飯を食った同期達とそれぞれの配属先に散ってゆく時の感じが近い。
そして日が完全に陽が沈む時、「この夕陽もきれいなんだから朝日もきれいだろうなぁ
。」明日はここで日の出を観賞してみたい。いゃ、観に行くんだ。
翌日早朝まだ真っ黒な朝ゲストハウスから、適当に流しているトゥクトゥク
を拾う為に明るい国道に出る。トゥクトゥクはすぐ捉(つか)まるというよりこちらが捉まったと言っても大げさじゃない。
トゥクトゥクドライバーに「プノムバケンに行きたい、サンライズが観たい」と言うと、「やめろ、危ない、暗い、ハイリスキーだ」と言って、他の日の出ポイントを勧めてきた。
プノムバケンの一点張りでドライバーも観念して、「オーケー」と言ってくれた。
山の入り口の駐車場まで来た。
目を開けても閉じていても変わらない闇の中「マジ怖えーっ!」
今までトゥクトゥのドライバが引き止めていたのがようやく納得できた。
僕の想像では、同じ目的の観光客が沢山居て暗い中でもワイワイガヤガヤと賑やかにみんな登っていくのだろうと思っていた。
「あなたはクレイジーだ、何か遭っても知らないぞ!」と山を登る事を諦めさせるドライバー。あー。困った。行きたいし、怖いし、どうしよう。
でもここで行かなくても、この情けない一部始終を知るのは。
僕とこのドライバーだけ、でもここで行かなで後悔したくもない。
と、5分位悩んだ末に行くと決心した。
「登る事にしたよ」とドライバーに言うと、「オーケー、じゃあ、俺はここで待つのは怖いから一度町まで戻って陽が登ってからまた迎えに来る。」
えっ?「おい、おい、」なんて人でなしなんだお前は「頼むからここで待っていてくれよ。」僕が持つ唯一の小さな1球のダイオードーの灯りをドライバーに向けるとボーっと、青白く生気の無い顔に見えて不気味さが増す。
ドライバーが怒り出したので、もう、判ったから、そうすればいい、と言うとけたたましいエンジン音と共に彼は戻っていってしまった。
「あーこうなったら、行くしかない」行かないで、ここでジッとしてても何か怖いもの見えたり怖い音聞いたりしてもイャだ。
そんな時に限って、ポルポト派による大量虐殺の死体の白黒写真を思い出したり、
心霊動画とかの一番怖かったシーンを思い出してしまう。
でも今は行くしかない。
薄暗い灯りを頼りに、入り口まできた。
「昼間ここは像が居たよな」像が寝てて突然襲ってきたらどうしょう。
腰をすくめ像を警戒しながら、恐る恐るすり歩くと埃が立ち咳き込んでしまう。登り初めてすぐに昼間の光景を思い出す。「あっ、ここは物乞いが座ってたとこだな。」物乞いがここでこの場所で寝泊りしてるんじゃないか?そして、まるでくもの巣にかかった丸々太った甲虫の如く、もう見境なしに襲ってくるんじゃないか?など、想像力は膨らむばかり、山道のすぐ脇でガサッ、ガサッ、と重いゆっくりとした笹の擦れるような音がした。
出た、こ、「こJき株式がいしゃぁー!」と大声で叫んだ。
全身を鳥肌が覆い、身動きできない、ここは根性決めて、楽しい事を考えようと、出てきたのは、ビートルズのイェスタディだった。歌詞が判らんので、鼻歌で気持ちよく歩いていると、ふと、「ビートルズで何か変な怖い曲と言うか、音と言うかそんなのあったなぁ」。「うあーっ、思い出したぞ、たしかレボリューションナインだ」
小学校で下校時刻でも帰らない生徒で悩んでいる学校は是非このレボリューションナインを校内放送でかける事をお勧めします。
まったくイャなことまた思い出しちゃった。
僕の脳の海馬からコンコンと沸いてくる恐怖のエボリューションナインを必死に抑えつつ、どうにか頂上の寺院遺跡まで来た。
森の中を通ってきたせいか、森を抜けると辺りはもう見渡せるくらい明るくなっていた。肝心の日の出はそれほど、いい絶景でもないしこれと言って珍しい光景でもなく見事に期待は外れてしまった。
しかし、結局判らなかったが、
あの音は一体なんだったんだろう。
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